目次
なぜエネルギー調整をしなければならないのか
はじめに、なぜエネルギー調整を行う必要があるのかを簡単に解説します。
その答えの1つはエネルギーの摂取量が他の多くの要素に影響を与えているためです。皆さんは、エネルギー摂取量の多い人と言われると、一般的にどのような人を想像されるでしょうか。やはり男性で体格が大きく、また普段の活動量が多い人を想像されるのではないでしょうか。また、年齢的に若い、成長期に該当する年齢の人の方が、高齢者よりもエネルギー摂取量が多いということは十分に考えられることです。
また、エネルギー摂取量が多いと、それに伴って3大栄養素やビタミン、ミネラルの摂取量も増える傾向にあります。3大栄養素は当然ですよね。なにせそれらの栄養素からエネルギーが生み出されるのですから、エネルギー摂取量が多いと3大栄養素も比例して多くなります。また、エネルギー摂取量が多い人は、食事量が多い傾向にありますので、ビタミンやミネラルもい多くなります。
すなわち、エネルギー摂取量は、性別や年齢、体格、運動量、多くの栄養素摂取量に直接的、もしくは間接的に影響を与えているという事になります。一般的に、食品や栄養素と疾病との関連を検討する栄養疫学研究においては、エネルギー摂取量が影響を与えるこれらの要素を、無視して考えることはできません。たとえば、研究を行った場合に、飽和脂肪酸の摂取量が増えると、脳血管障害が増えるという結果が得られたとしましょう。そうした場合に、エネルギー摂取量を調整していないと、エネルギー摂取量が多いから脳血管障害が増えたという可能性や、はたまた体格の大きい人に脳血管障害が多いのかもしれないという可能性を捨て去ることができなくなります。そのため、栄養疫学研究においては、エネルギー調整は必須だと言えるでしょう。
エネルギー調整法
密度法について
概要
密度法というのは、栄養素の粗摂取量をエネルギー摂取量で割ったものです。たとえば、エネルギーの摂取量が1500kcal、ビタミンAの摂取量が300μg RAEだとすると、以下のような式になります。
エネルギー調整値(μg RAE/kcal) = 300(μg RAE) ÷ 1500(kcal)
密度法におけるエネルギー調整は、主に2つのパターンに分かれます。それは、
- 1000kcalあたりの栄養素摂取量で表す
- PFCバランスとして表す
のパターンです。
1000kcalあたりの栄養素摂取量で表すパターンでは、
エネルギー調整値(μg RAE/kcal) = 300(μg RAE) ÷ 1500(kcal) × 1000
となります。
PFCバランスとして示す場合はもっと単純ですね。たんぱく質を例として紹介しますと、たんぱく質60g、エネルギー1500kcalとすると、以下のような式になります。
P比(%) = 60 × 4 ÷ 1500 × 100
Excelで行う場合
では、これをExcelで行う場合を見ていきましょう。
まずは1000kcalあたりのエネルギー調整値の算出法から。
実際の計算式などは以下のようになります。
また、PFCバランスの場合は以下のようになります。
残差法について
概要
残差法は、総エネルギー摂取量の影響を完全に取り除くことのできる方法です。実は、密度法では、総エネルギー摂取量の影響を完全に取り除くことができません。少し影響は弱くはなりますが、すべてを取り除くことはできないのですね。しかし、残差法を用いると、完全に取り除くことができるのです。
残差法による計算式は以下のようになっています。
エネルギー調整値 = 集団の平均エネルギー摂取量 + 残差
ここでいう残差というのは、その対象者の、実際の栄養素摂取量と、回帰式から予測される予測値との差のことを指します。残差はプラスの値もマイナスの値も取りうることになります。以下に残差を算出するための計算式を示します。
残差 = 栄養素摂取量の実測値 – 栄養素摂取量の予測値
予測値は、先ほども示しましたように、回帰式から算出します。栄養素摂取量を従属変数、エネルギー摂取量を独立変数とし、回帰分析を行います。これで予測値を算出することができます。
Excelで行う場合
では、Excelで残差法によるエネルギー調整を行う方法を示したいと思います。まずは、サンプルデータとして、以下の表をシートのセルA1に貼り付けてください。
エネルギー摂取量 | たんぱく質摂取量の実測値 | たんぱく質摂取量の予測値 | 残差 | エネルギー調整たんぱく質摂取量 | 傾き | |
1618 | 69 | 切片 | ||||
1933 | 51 | |||||
1479 | 57 | |||||
1317 | 46 | |||||
1737 | 72 | |||||
2200 | 80 | |||||
1667 | 58 | |||||
1895 | 67 | |||||
1656 | 72 | |||||
1917 | 55 | |||||
1214 | 47 | |||||
1300 | 45 | |||||
1282 | 64 | |||||
1803 | 73 | |||||
1406 | 72 | |||||
1222 | 58 | |||||
1870 | 59 | |||||
1295 | 61 | |||||
1500 | 47 |
では以下に手順を示します。
- まずは残差を求めていきます。そのために、たんぱく質摂取量を従属変数(y=ax+bにおけるy)に、エネルギー摂取量を独立変数(y=ax+bにおけるx)とした回帰式における、傾きaと切片bを求めます。これらはExcelの関数で求めることができ、それぞれ、
・傾き:=SLOPE()
・切片:=INTERCEPT()
が用意されています。まずは傾きから求めていきましょう。セルH1に以下の計算式を入力してください。
=SLOPE(B2:B20,A2:A20)
ここで、最初の引数がたんぱく質摂取量を、2番めの引数がエネルギー摂取量をそれぞれ示しています。 - 次に、回帰式の切片を求めましょう。切片はINTERCEPT関数で求めることができます。以下の計算式をセルH2に入力してください。
=INTERCEPT(A2:A20,B2:B20)
引数は先ほどと同じですね。 - 次に、それぞれの対象者における、たんぱく質摂取量の予測値を計算していきます。y=ax+bの一次回帰式に、先ほど算出した傾きと切片を当てはめ、対象者のエネルギー摂取量から、その集団における、そのくらいのエネルギーを摂取している場合に予測される、たんぱく質摂取量を算出します。以下の計算式を、セルC2に入力してください。
=$H$1*$A2+$H$2
y=ax+bに当てはめただけですね。
たんぱく質摂取量の予測値=傾き*エネルギー摂取量+切片ですね。後ほど下にオートフィルでコピーするので、ドルマークは忘れないようにしてくださいね。 - では、セルC2を、下方向にオートフィルを使用してコピーしてください。これで、各対象者の、たんぱく質摂取量の予測値を算出することができましたね。
- 次は、各対象者毎に、残差を求めます。以下の計算式を、セルD2に入力してください。
=B2-C2
簡単ですよね。実測値-予測値で残差を算出することができます。これを、予測値を算出した時の同じ様に、下方向にコピーしてください。これで残差が求まります。 - 残差は、プラスにもマイナスの値にもなりうるので、実際にはわかりにくくなります。そのため、集団の栄養素摂取量を加えた値をエネルギー調整栄養素摂取量として示すのが一般的です。以下の計算式を、セルE2に入力し、下方向にオートフィルでコピペしてください。
=AVERAGE($B$2:$B$20)+D2
これで、エネルギー調整栄養素摂取量を算出することができました。
まとめ
今回は、栄養疫学で必要となるエネルギー調整について、密度法による方法と、残差法による方法の2つをお示ししました。2つの方法は、その使い方や解釈に違いがあります。それらをしっかりと理解した上で使用するようにしてください。
参考文献
- 田中平三, 横山徹爾. “栄養疫学における総エネルギー摂取量に対する解釈と取り扱い方.” 日本栄養・食糧学会誌 50.4 (1997): 316-320.
- 伊達ちぐさ, 徳留裕子, 吉池信男. “食事調査マニュアルはじめの一歩から実践・応用まで, 改定.” (2009): 4-12.