【意外と知らない?】食事摂取基準でのエネルギー・栄養素の優先順位

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

食事摂取基準が改訂されると,「塩分目標量が0.5g減」とか「コレステロールの基準値が設定された / 撤廃された」などの細かい話が取り上げられる気がします。一般の方により身近に感じられやすいトピックだからでしょうか。

あまり身近に感じられないビタミンやミネラル等の栄養素が当たり前のように充足できているために取り上げられない,ということであればそれは非常に喜ばしいことです(実際,多くの栄養素はそうなのでしょう)。

しかし,私の実感として栄養素等の優先順位が誤って理解されているのでは?という場面にたびたび出くわします。そこで,ここで少し栄養素の優先順位について整理しておきたいと考えブログに残してみました。 食事摂取基準に触れたことがある人にとっては常識でしょうが,ご興味あればご覧ください。

栄養素等の優先順位の変遷

2010年版|具体的な栄養素例を示す

以前の基準;日本人の食事摂取基準(2010年版)では「活用の基礎理論」において「栄養素の特性からみた分類と優先順位」が具体的に記されていました:

エネルギー収支のバランスを適切に保つことは栄養管理の基本である。栄養素はその特性に応じて、活用の目的が健康の維持・増進(健全な成長を含む)と生活習慣病の一次予防の2つに大別される。生活習慣病の一次予防は、健康の維持が保証された場合にめざすものである。したがって、推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量が優先され、次に目標量について考えることが望ましい。また、人で明確な欠乏症が確認されていない栄養素や、摂取量や給与量を推定できない栄養素の優先順位は低い。

引用)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)|活用の基礎理論

ナトリウムにしても飽和脂肪酸にしても,基準値として定められているのは生活習慣病の一次予防を目的とした目標量です。それらは健康の維持が保証された場合に目指すもので,優先順位としては少し下がる旨が記されています。

また,上記については具体的な栄養素も例示しながら別表としても示されています:

転載) 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)|活用の基礎理論

2015年版|指標の特性などを総合的に考慮

2010年版においては上記のような表が掲載されていましたが,これは2015年版からは削除されています。かわりに「指標の特性などを総合的に考慮」という項目が新設されました。そこには以下のように書かれています:

 食事事摂取基準は、エネルギーや各種栄養素の摂取量についての基準を示すものであるが、指標の特性や示された数値の信頼度、栄養素の特性、さらには対象者や対象集団の健康状態や食事摂取状況などによって、活用においてどの栄養素を優先的に考慮するかが異なるため、これらの特性や状況を総合的に把握し、判断することになる。
 食事摂取基準の活用のねらいとしては、エネルギー摂取の過不足を防ぐこと、栄養素の摂取不足を防ぐことを基本とし、生活習慣病の予防を目指すことになる。また、サプリメントなど特定の成 分を高濃度に含有する食品を摂取している場合には、過剰摂取による健康障害を防ぐことにも配慮する。

引用)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2015年版)

具体的な栄養素を示さないようになった経緯として「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定の議事録において以下のように記されています:

 どういうことかと申しますと、一律に全国民に対して考慮するべきエネルギー、栄養素について優先順位をつけて幾つかを挙げるということは、今回は避けたいと考えております。
 なぜかと申しますと、それは集団の特性、個人の特性を正しくアセスメントをし、そこから得られた情報から重要なエネルギー及びどの栄養素かということを、それぞれの食事摂取基準を使う者が取捨選択をしてほしいということ、そういう活用のところの理念に沿うものであると考えまして、具体的な栄養素名は挙げないこととしたいと思います。

引用)厚生労働省:第6回「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会 議事録(2014)

つまり,「 エネルギー摂取の過不足を防ぐこと、栄養素の摂取不足を防ぐことを基本とし、生活習慣病の予防を目指すことになる 」とはしつつ,具体的にどのような栄養素を優先するか,ということについては食事摂取基準を使う者が総合的に判断することとなりました。これは栄養素の優先順位について「記載の優先順位を下げた」というよりも,むしろ例示していた栄養素だけにとどまらない広く・深い判断が必要であることが示されたという理解でよいかと思います。

2020年版|高齢者の栄養に言及

2020年版(案)においても上記の文言は引き継がれています。下記のように記されています:

 食事摂取基準は、エネルギーや各種栄養素の摂取量についての基準を示すものであるが、指標の特性や示された数値の信頼度、栄養素の特性、更には対象者や対象集団の健康状態や食事摂取状況などによって、活用においてどの栄養素を優先的に考慮するかが異なるため、これらの特性や状況を総合的に把握し、判断することになる。
 食事摂取基準の活用のねらいとしては、エネルギー摂取の過不足を防ぐこと、栄養素の摂取不足を防ぐことを基本とし、生活習慣病の予防を目指すことになる。また、通常の食品以外の食品等特定の成分を高濃度に含有する食品を摂取している場合には、過剰摂取による健康障害を防ぐことにも配慮する。

引用)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 (案)(2019)

ただし,2020年版からは対象者について具体的な例をあげています。これは2015年版とは異なる部分だと思います。ナトリウムの「活用に当たっての留意事項」の箇所において具体的に「高齢者」を例に指標の活用について記しています:

なお、高齢者では食欲低下があり、極端なナトリウム制限(減塩)はエネルギーやたんぱく質を始め多くの栄養素の摂取量の低下を招き、フレイル等につながることも考えられる。したがって、高齢者におけるナトリウム制限(減塩)は、健康状態、病態及び摂食量全体を見て弾力的に運用すべきである。

引用)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 (案)(2019)

高齢者においてはふレイル等の原因になる低栄養が問題視されており,それを防止するための方法の1つとしてナトリウム制限の実質的な緩和を提案しています。このような文言も食事摂取基準における栄養素等の優先順位を考える際の目安となるでしょう。

優先順位を決める際に考慮すべきこと

食事摂取基準では非常にたくさんの栄養素項目について基準値が定められています。理想的なことを言えばそのすべてが基準値の範囲にあればベストですが,日常的な食事でそれを達成することは難しいのが現状でしょう。となると,必然的に優先順位をつけざるを得ないのが現実的なところだと思います。

①指標・栄養素の特性

優先順位を決める場合,該当の栄養素の特性を理解しておく必要があります。そのためには基準値を策定した根拠についても確認しなければなりません。たとえば,ビタミンKについては目安量が定められていますが,これは国民健康・栄養調査の値を参照して行われています。ビタミンKに起因する欠乏症が健康な人において稀なことから,健康な人の通常の食事を摂取していれば欠乏症は発生しないだろう,という推測により国民健康・栄養調査の平均値(納豆非摂取者)が採用されています。であれば,その他の栄養素が基準値に入るような食事を摂取していれば欠乏の心配はなく,ビタミンKの優先順位は低めになるだろうという推測も可能かと思います。

②対象者の特性

加えて,対象者の特性にも考慮が必要です。先ほど,優先順位が高くない場合が多いビタミンKについて紹介しましたが,高齢者においてはビタミンKの吸収量が低下すると予想されるため,目安量の遵守には若者よりも考慮が必要かもしれず,優先順位をあげる必要性があるかもしれません。特に,ビタミンKの多く含まれる納豆を摂取しない対象者であれば一般的な食事を送っている人であっても考慮が必要かもしれないのです。

さらに,対象者の特性については葉酸についても考えておきたいところです。妊娠可能な女性については神経管閉鎖障害の予防のためサプリメントの使用も想定した葉酸摂取が勧められています。しかし,これについても単に「妊娠可能な女性」と「妊娠を計画している女性」とでは優先順位が異なることが容易に想像できます。

つまり,上記のような「対象者はどのような人たちか?」ということも優先順位の判断材料となるのです。

③食事を提供する目的

また,食事を提供する目的によっても優先順位は変わるかもしれません。たとえば,糖尿病の教育入院。ナトリウムの目標量の遵守は短期間の入院においては,その他の欠乏症が存在するビタミンやミネラルと比べると,優先順位は高くないと考えられます。しかし,教育入院という特性がある以上は減塩を緩めるのは好ましくありません。その場合,ナトリウムの目標量の遵守は優先順位が高くなる場合があるでしょう。

まとめ

上記のように優先順位を判断するための材料はたくさんありますが,基本的には食事摂取基準の本文中にもあるように「エネルギー摂取の過不足を防ぐこと、栄養素の摂取不足を防ぐことを基本とし、生活習慣病の予防を目指すことになる」かと思います。これをベースに弾力的に優先順位を判断する能力が管理栄養士に求められます。

今回は食事摂取基準における栄養素等の優先順位について整理してみました。優先順位が直感的に理解できるものもあれば,基準値の策定根拠を追わないと理解できないようなものもあります。いずれにせよ,食事摂取基準をしっかりと読み込み,他の要素も加味しながらしっかりと判断していきたいところです。

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