食塩の摂取目標量がどんどん下がるのはなぜか?

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」が発表されました。それにあたり,フレイル予防の観点が追加されたなど,特筆すべきニュースがいくつかありますが,それに加えて食塩の摂取目標量もまた下がることとなりました。ここのところ下がり続ける食塩の目標量。なぜ下がり続けるのか,食事摂取基準の目標量の考え方なども鑑みつつ解説したいと思います。

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下がり続ける食塩の目標量

下記のグラフは,食塩の摂取目標量の遷移を示しています。日本人の食事摂取基準における,2005年から2020年までの18歳~29歳の男女を参照しています:

食塩摂取の目標量は2005年版の時点では男性10g,女性8gでした。しかし,2020年版では男性7.5g,女性6.5gに変更される予定です。つまり,男性だと15年の間で2.5gも少なくなったということになります。

人間の体は15年前と大きく変わっているわけではありません。食塩が体により毒になるように進化(退化?)したわけでは当然ないのです。にもかかわらず,なぜ食塩の目標量は少なくなるのでしょうか。これを理解するためには,食事摂取基準で使われている「目標量」という指標の概念を理解しておく必要があります。

目標量とは?

概要

なにげなく使用されている「目標量」という言葉。これは「日本人の食事摂取基準」における指標の1つで,英語で「tentative dietary goal for preventing life-style related diseases 」といい,略してDGと呼ばれます。直訳すると「生活習慣病予防のための暫定的な食事目標」とでも言えましょうか。

目標量のポイントは大きく次の2つに集約されます:

  1. 生活習慣病の予防を目標とする
  2. 現在の日本人が目標とすべき摂取量を設定する

これをしっかりと把握することが,目標量の理解に不可欠となります。

生活習慣病の予防を目標とする

生活習慣病は長期間の蓄積によって発症する病気です。1,2ヶ月くらい不摂生が続いたからといって糖尿病になるわけではありません。数十年のありとあらゆる蓄積が生活習慣病の発症に寄与しています。

食塩の場合は高血圧症を予防することを主目的としています。長い年月にわたって食塩を過剰にとると,高血圧になるリスクが高くなることが知られています。しかし,たった1日,食塩の摂取量が20gになったとしても,それだけで高血圧にはなりません。つまり,より長期的な視野が必要となるのが目標量なのです。

現在の日本人が目標とすべき摂取量を設定する

また,現在の日本人が目標とすべき摂取量を設定しているのも目標量の特徴です。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」から,目標量に関する説明を抜粋します:

生活習慣病の発症予防を目的として、特定の集団において、その疾患のリスクや、その代理指標 となる生体指標の値が低くなると考えられる栄養状態が達成できる量として算定し、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量として「目標量」を設定する。

厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)

ここでも「現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量」という言葉があります。

それゆえ,現在の日本人の状態によって当面の目標は変化します。もっと具体的にいうと,日本人の実際の栄養素摂取量によって目標とすべき摂取量は変化します。実際とかけ離れすぎている摂取量を目標としても誰も守りませんものね。

たとえば現在の摂取量が望ましいと考えられる値よりも少ない場合(食物繊維などが含まれる),いきなり「これだけの量を食べましょう」といっても到底ムリだったりしますので,望ましいと考えられる量と現在の実際の摂取量との中間の値が目標量として採用されます。

今回問題となっている食塩については,望ましいと考えられる摂取量よりも,実際の摂取量はかなり多めです。日本人は食塩を摂取しすぎなのです。なので,目標とすべき量は当然それよりも少なくなります。ただ,いきなり望ましいと考えられる摂取量を目標として設定しても,それは実現可能性が低く遵守されにくくなります。なので,最近の日本人の摂取量の変遷をみつつ,妥当なラインの目標を設定することになります。

日本人の目標量はまだまだユルい

国民健康・栄養調査の結果

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では,国民健康・栄養調査の結果を参照しています。実際の変遷は以下のようになっています:

このように,食塩の摂取量は年々下がっているように見えます。2017年の結果を見ると,男性:10.7g,女性:8.9gでした(参考)。このことを根拠の1つとして,食塩摂取の目標量をさらに厳しくなる予定です。(国民健康・栄養調査の結果を根拠としても良いのか?というのはまた別の問題)。

WHOの推奨は5g/日。目標は高く?

実はWHOの推奨はもっと厳しいものです。成人は1日に5g未満にすることを推奨しています(参考)。これは,先ほど示した日本人の実際の摂取量(男性:10.7g,女性:8.9g)と比較するととても厳しい量です。

本来であれば,これを日本人が目指すべき摂取量として提示すべきでしょう。でもそうはなりません。多くの人はいきなりこの数字を提示されても,それを守ろうとはならないのです。

貴方が仮に営業マンだとしましょう。特別に頑張っているわけではないが,それなりに真剣に仕事に取り組んでいる。周囲と比べても成績は中の下程度。月の売り上げは100万円程度とします。そんなある日,「来月は最低でも150万円を売ってこい」と言われたとしましょう。こう言われて,貴方は頑張る事ができますか?おそらく頑張れないでしょう。それなりに真剣に仕事に取り組んでいる貴方でも,目標が高すぎると頑張る気力をなくしてしまいます。ですが,仮に125万円の売り上げを目標として提示されたらどうでしょう?特別に頑張っているわけではない貴方。成績も上のほうでない貴方だと,そのくらい頑張る余地があるのではないでしょうか。

下手なたとえ話でしたが,同様のことは食事についても言えます。そういった事情を加味しつつ,2020年版の食事摂取基準では,WHOの基準量と実際の摂取量の中間の値を目標量として設定する予定となっています。その値が冒頭でも出ましたが男性7.5g,女性6.5gなのです。いきなり5gが目標だ!と提示するよりは合理的だと思いませんか?

目標量はこれからも下がっていく?

これらのことを勘案すると「目標量がこれからも下がっていくか?」という問いにもおのずと答えられそうです。

答えはおそらくイエス。食塩摂取量の目標は今のところWHOの5gです。なので,日本人の食塩の摂取量が順調に?下がっていけば最終的には5gに行き着くはずです。

以上より,日本人の体質が変わるわけではありませんが,おそらくこれからも食塩の目標量は下がっていくことでしょう。それに一喜一憂したい気持ちもわかりますが,食塩の目標量の設定のされ方を思い出し,冷静に日頃の食生活と向き合うと良いでしょう。

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