昆虫食について:栄養士のための昆虫食の基礎知識

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

今回は「昆虫食」について書きたいと思います。

昆虫食は非常に注目されています。このブログの主な読者は栄養士の方ですが,その方々でも(食べる・食べないにかかわらず)気になっている方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は,栄養士の方を対象とし,昆虫食の基本的な知識について整理してみたいと思います。栄養士の方を対象としますので,栄養価や安全性といった面に主に触れたいと思います。

では行きましょう!

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はじめに:なぜ昆虫食が注目されているのか

はじめに,「なぜ昆虫食が注目されているのか」から紹介していきたいと思います。

これについては,FAO(国連食糧農業機構)が公表した報告書「Edible insects: Future prospects for food and feed security」から抜粋したいと思います。

主に下記の3つが昆虫を食べる理由として挙げられます。これらについて,下記で見ていきましょう。

・健康
・環境
・生活

健康:昆虫の栄養価は高い

昆虫の魅力はなんといってもその栄養価。牛肉や豚肉といった,これまで一般的に食べられてきた家畜類に,勝るとも劣りません。

・鶏肉や豚肉,牛肉,魚に代わる健康的で栄養価の高い食材
・たんぱく質や,良質な脂,やカルシウム,鉄,亜鉛を豊富に含む
・すでに多くの地域や国で伝統的に食べられている

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

特に注目されているのは,そのたんぱく質の量です。昆虫食が身近な一部の地域では,たんぱく質の主要な供給源になっているほどです。

従来の家畜は,生産に大きなコストがかかっていました。それに比べて昆虫の生産コストは低くなっています(詳細後述)。ですので,それらの家畜と同程度の栄養価があれば,代用の食材として申し分ないというわけでなのです。

環境:昆虫の生産コストは低い

そして環境面です。昆虫の生産コストは低いため,今後人口が増加していっても,持続的に生産することができます。

・温室効果ガス(GHG)の排出がかなり少ない
・飼育に広い土地を必要としない
・飼料のたんぱく質変換効率が非常に高い

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

従来の家畜の生産には,多くの温室効果ガスの排泄を伴います。なんと,全体で排泄される温室効果ガスのうち,14%を家畜が占めているとされるほど。昆虫は温室効果ガスをほとんど排泄しないので,その分環境には優しいのです。

また飼育に広い土地を必要としないため,新たに土地を切り開いてまで飼育場所を確保する必要もありません。そのため,環境破壊のリスクも少なくなります。

さらに,飼料を効率的にたんぱく質に変換できるため,相対的に餌も少なくて済みます。環境への優しさがスゴいですね。

生活:経済的・社会的な役割

次に生活(生計)です。従来の家畜とは違った魅力もあります。

・ローテクかつ低資本で行える(女性や土地を持たない人など社会の最貧困層にも参入可能)
・投資レベルに応じて,ローテクなものから高度なものまで行える

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

世界では数百の昆虫食関連ベンチャーが誕生しているとされています。日本でも,そのような企業の名前を聞く機会が増えてきました。それには,上記のような理由がありそうです。

従来の家畜は,生産に大きな資本が必要でした。たとえば,広い土地が必要でした。家畜ビジネスに参入するためには,まずは土地を確保する必要がありました。それに対して,昆虫は狭い土地でも飼育できるため,大きな資本がなくても参入可能なのです。

昆虫食の栄養価

次に,昆虫食の栄養価について見ていきましょう。

昆虫を食べる理由の1つとして,その栄養価があることを上記で紹介しました。では,実際にどのような栄養素が昆虫に含まれているのかが気になるところだと思います。

そこで下記では,昆虫にどのような栄養価が含まれているのかについて,種々の資料を参考にしながら取り上げたいと思います

取り上げる栄養素は,下記の通りです:

  • たんぱく質
  • 脂質
  • 繊維(キチン質)
  • ビタミン
  • ミネラル

たんぱく質

昆虫には多くのたんぱく質が含まれています。下記にたんぱく質含有量の表を示しました。主要な昆虫と,従来一からの般的なたんぱく質源である牛肉と魚とを掲載しています。

種類たんぱく質含有量
(g/100g生重量)
いなごやバッタ13-28
カイコ10-17
コオロギ8-25
牛肉19-26
16-28
改変引用) FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

見ての通り,昆虫に含まれるたんぱく質量は,従来の家畜と比べても遜色ないことがわかります。昆虫食が次世代の持続可能なたんぱく質源とされる理由の1つですね。

次にアミノ酸組成についても確認しておきましょう。これについては,昆虫の種類によってバラツキがあります。

・甲虫目(Coleoptera)・蜂目(Hymenoptera)・鱗翅目(Lepidoptera)・バッタ目(Orthoptera)の昆虫は,必須アミノ酸の必要量を満たしているか超えている(牛肉・卵・牛乳・大豆と当程度)。

・ゴキブリ目(Blattodea)・ハエ目(Diptera)・カメムシ目(Hemiptera)・等翅目(Isoptera)の昆虫は,イソロイシン・ロイシン・リジン・メチオニン・システインの少なくとも1種のアミノ酸が不足。

訳注)甲虫目:カブトムシなど蜂目:蜂全般のほか,アリを含む鱗翅目:チョウやガバッタ目:バッタ,コオロギゴキブリ目:ゴキブリハエ目:カ,ハエカメムシ目:タガメ,セミ等翅目:シロアリ

CHURCHWARD-VENNE, Tyler A., et al. Consideration of insects as a source of dietary protein for human consumption. Nutrition Reviews, 2017, 75.12: 1035-1045.

先に紹介したいなごやコオロギ,カイコといった昆虫は,必須アミノ酸の必要量を満たすグループに分類されます。ですので,それらを食べる分には,アミノ酸組成についてまで気にする必要は,薄いかもしれません。

脂質

次に紹介するのは脂質です。昆虫には脂質も多く含まれています。昆虫から得られるエネルギーの多くは,脂質に由来します。

・昆虫に含まれる脂質には,多価不飽和脂肪酸が豊富。必須脂肪酸であるリノール酸やα-リノレン酸も多く含む。
・魚へのアクセスが悪い地域での,必須脂肪酸供給源となる可能性

・ただし,不飽和脂肪酸の存在は,昆虫加工時の酸化の原因になり,腐敗を早める原因になりかねない。

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

昆虫に含まれる脂質は,食べるだけでなく,工業製品への活用も期待されます。

また一般に成虫よりも幼虫の方が脂質含有量が高く,特に「いも虫(caterpillar)」に多い傾向にあります(Ref)。

ビタミン

続いてビタミンです。こちらもFAOの報告書から抜粋します。

・ビタミンB1含有量:0.1~4 mg/100g乾燥重量の範囲。
・ビタミンB2含有量:0.11~8.9mg/100g乾燥重量の範囲。
・ビタミンB12含有量:多くの種で非常に少ない。
・ビタミンA:一部のいも虫で検出されるが,総じて少ない。
・ビタミンE:カイコに比較的多く含まれる(9.65mg/100g乾燥重量)

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

先に紹介したたんぱく質や脂質と比べると,ビタミン含有量は,やや見劣りする傾向にあります。ビタミンの供給源になることを期待し,昆虫を食べることは難しそうです。

ミネラル

次にミネラルです。昆虫にはいくつかのミネラルが豊富に含まれます。

・ほとんどの昆虫は,牛肉と同等以上の鉄を含む
・ほとんどの昆虫は,亜鉛の良質な供給源と考えられる

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

鉄の含有量が多いのが昆虫の特徴です。たとえば,南部アフリカではポピュラーなたんぱく質源である「モパネワーム(Ref)」には,31~77mg/100g乾燥重量もの鉄が含まれます(Ref)。また日本の食品成分表に収載されている「いなごのつくだ煮」では,100gあたり4.7mgの鉄が含まれるとされます(Ref)。

加えて,亜鉛の供給源としても昆虫は優秀です。たとえば,牛肉に含まれる亜鉛は12.5mg/100g乾燥重量であるのに対し,ヤシオオオサゾウムシには26.5mg/100gも含まれます(Ref)。

繊維

意外に思われるかもしれませんが,昆虫には多くの繊維が含まれます。

・昆虫の繊維の多くは,不溶性の繊維である「キチン」。
・繊維含有量は,繊維の測定方法や昆虫の種によってバラツキがある。商業的に飼育されている昆虫のキチン含有量は,0.27~4.98mg/100g生重量。

抄訳・引用)FAO:Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)

昆虫の外見を想像するとおわかりいただけるでしょう。昆虫は体の表面をキチン質の堅い殻で覆っています。主に外骨格に含まれています。

一般に「食物繊維」といえば健康に良いとされていますが,昆虫の繊維はどうでしょうか。キチンは,食物繊維と同様の働きをするとの報告もあります(Ref)。そう考えると,昆虫は食物繊維の供給源となりうるといえるかもしれません。

とはいえ,エビのしっぽを食べるようなものとすれば,それほど積極的に食べるようなものではないかもしれません。加えて,キチン質を除去することで,昆虫たんぱく質の消化率の改善に寄与する可能性があるようです(Ref

なので,キチン質はキチン質で分離し,他の用途(キトサンやグルコサミンの分解など)に使用するのが良いのかもしれませんね。

昆虫食の安全性

最後に昆虫食の安全性について取り上げたいと思います。

欧州食品安全機関(EFSA)は,昆虫は基本的なルールを遵守することにより,食品としての安全性に問題はなとしています。ただし,魚介類やダニへのアレルギーを持つ人では,アレルギー反応を起こす可能性も指摘されています。

食品としての安全性に問題はない(EFSA)

昆虫は特定の地域においては,古くから食べられてきました。しかし,一般的に見ると,まだまだ新規食品の域を出ません。安全性に対する評価が必要です。

欧州食品安全機関は,要請に基づき,「乾燥イエローミールワーム」の安全性について評価を行いました。その結果,報告書内で下記のように結論しています。

・指定の使用条件とレベルに基づく限り安全である
・ただし,アレルギー反応を引き起こす可能性がある

抄訳・引用)EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens (NDA), et al. Safety of frozen and dried formulations from whole yellow mealworm (Tenebrio molitor larva) as a novel food pursuant to Regulation (EU) 2015/2283. EFSA Journal 19.8 (2021): e06778.

毒性試験を行った結果,安全性には問題はありませんでした。しかし,甲殻類やダニに対するアレルギーを持っている人では,アレルギー反応を引き起こす可能性が指摘されました。アレルギー反応について,下記で紹介します。

ただし魚介類やダニのアレルギーの人は要注意

昆虫には,下記のようなアレルゲンが含まれることが報告されています。

  • トロポミオシン
  • アルギニンキナーゼ
  • グルタチオン S-トランスフェラーゼ
  • キチナーゼ

トロポミオシンやアルギニンキナーゼは,エビやカニといった甲殻類においてもアレルゲンとなりえます。そしてそれらの成分は,甲殻類と昆虫とで構造がよく似ています。すなわち,甲殻類でアレルギー反応を引き起こす人は,昆虫でもアレルギー反応を引き起こす可能性があるのです

特に注意が必要なのは,下記のような食材(動物)にアレルギー症状を引き起こす方だと考えられます。

  • 甲殻類:エビやカニなど
  • 軟体動物:貝やタコ,イカなど
  • ダニ

加えて,昆虫の餌に含まれるアレルゲンが,そのまま昆虫に移行するケースもあるようです(グルテンなど)。そのため,上記に対してアレルギー症状を引き起こさない場合でも,昆虫を初めて食べるような場合には,体調が良い日に少量ずつ試すのが良さそうです。

まとめ

今回は昆虫食について紹介しました。昆虫食が私たちの食卓に並ぶ日も,そう遠くなさそうです。すでに取り入れられている人もいるかもしれないですね。

昆虫食について,もっと広く学びたいという方は,下記の書籍:『昆虫食スタディーズ』(水野壮 著)がオススメです。非専門家向けに網羅的に紹介されています。

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