「科学的根拠のある」と「科学的根拠に基づく」

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

科学的根拠という言葉が広く使われています。少し前までは,主に医療の文脈で利用されてきたように思います。EBM,科学的根拠に基づく医療などです。昨今ではそれ以外の栄養学やフィットネス,ビジネスなどの分野でも,科学的根拠ないしエビデンスという言葉が利用されてきているようです。そういった中で,「科学的根拠のある」という言葉と,「科学的根拠に基づく」という言葉の両方が使用され,個人的に「それらの言葉の使われ方が微妙に異なるところがあるのではないか?」と感じましたので少し書いてみます。

まず「科学的根拠のある」という言葉。医学の文脈では,科学的根拠は一般に研究の結果(参照)という意味で使われます。つまり,「科学的根拠のある」というのは,何らかの言説が実際に行われた研究の結果から証明できることを指しています。根も葉もない個人の意見ではなく,ちゃんと研究の結果で裏付けることができますよ,ということが言えるわけです。

次に「科学的根拠に基づく」という言葉。これは例として科学的根拠に基づく医療から考えてみます。定義のようなものとして,次のように書かれています:

本来のEBMは,臨床研究によるエビデンス,医療者の専門性・経験と患者の価値観の3要素を統合し,より良い患者ケアのための意思決定を行うものである

引用)中山健夫:臨床研究から診療ガイドラインへ: 根拠に基づく医療 (EBM) の原点から. 日本耳鼻咽喉科学会会報 113.3 (2010): 93-100.

つまり,科学的根拠に基づく医療の場合は科学的根拠(エビデンス)のみを利用するのではなく,それ以外にも医療者の専門性・経験と患者の価値観を導入しています。科学的根拠があるのは当然で,それ以外の要素も利用するのです。この点が「科学的根拠のある」ものとは異なると考えています。

巷では科学的根拠やエビデンスという言葉の使用が増えてきたと感じます。Webメディア等を見ていても「科学的根拠のある記事」という表記をちらほら見かけます。これは医療情報を扱ったメディアに限ったものではありません。それほど科学的根拠という言葉が一般的になってきたということでしょう。個人的にこのようなトレンド?は歓迎しています(科学的根拠の選び方に問題がある場合があるかもしれませんが,それはまた別のお話…)。

しかし,科学的根拠があるだけでは不十分です。EBMの概念を医療以外の要素にも当てはめて考えてみると,記事を書いている人の専門性や経験,また記事を読む人の価値観やリソース等にも配慮しながら情報を掲載する必要があります。科学的根拠があるとはいえ,専門性に基づいていていない,対象者の価値観を考慮していなような情報では価値は高くないように感じます。

「科学的根拠のある」という言葉と,「科学的根拠に基づく」という言葉。日本語的には同じような意味をもつものだと思いますが,昨今のこれらの言葉の使用背景を考えると,やや違う意味を持っている・誤解されている?と感じることがありましたので書いてみました。

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