成分表2020を使った食品表示基準における「熱量」の算出方法

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

食品表示基準の「熱量」の算出には修正アトウォーター法が用いられます。他方,食品標準成分表では,それとは若干異なった方法で食品の「エネルギー」を算出します。つまり,食品表示の「熱量」の算出方法と,食品成分表の「エネルギー」の算出方法とは異なるのです。

食品成分表を使用して食品表示を行う場合,食品表示基準で定められている算出方法に沿うことが望ましいと考えられます。そこで今回は,「食品標準成分表2020年版(八訂)」を使って,食品表示基準における「熱量」を算出する方法を紹介します。

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食品表示基準における「熱量」の算出方法について

食品表示基準における「熱量」(エネルギー)の算出方法は,「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号) 別添 栄養成分等の分析方法等」において,修正アトウォーター法を用いることと定められています。

修正アトウォーター法とは:たんぱく質・脂質・炭水化物の重量にそれぞれ特定のエネルギー換算係数を乗じて足し合わせることで,エネルギーを算出する方法です。

  • 食品がきくいも・こんにゃく・藻類・きのこ類の場合は,算出されたエネルギー値に0.5を乗じます。
  • もし炭水化物の内訳として糖質と食物繊維を記載する場合には,炭水化物の重量とエネルギー換算係数ではなく,糖質・アルコール・有機酸・難消化性糖質・食物繊維のものを用いる必要があります。

修正アトウォーター法で用いられるエネルギー換算係数:下記の通りです:

  • たんぱく質:4,脂質:9,炭水化物:4,糖質:4,アルコール:7,有機酸:3。
  • 難消化性糖質:種類ごとに産生エネルギー量が異なるため,それぞれ別途定められたエネルギー換算係数を用います。
  • 食物繊維:2を使用するか,素材に応じた適切なエネルギー換算係数を使用することとされています。

計算式で示すと下記のようになります:

ケースA糖質と食物繊維を分けて記載しない場合:
熱量(kcal) = たんぱく質(g) × 4 + 脂質(g) × 9 + 炭水化物(g) × 4
*きくいも・こんにゃく・藻類・きのこ類の場合は,算出されたエネルギー値に0.5を乗じる

ケースB:糖質と食物繊維を分けて記載する場合:
熱量(kcal) = たんぱく質(g) × 4 + 脂質(g) × 9 + (糖質(g) - アルコール(g) - 有機酸(g) - 難消化性糖質(g)) × 4 + 食物繊維(g) × 2 + アルコール(g) × 7 + 有機酸(g) × 3 + 難消化性糖質(g) × 特定のエネルギー換算係数

食品表示基準のエネルギー算出方法は成分表2020の方法とは異なる

食品表示基準で定められている修正アトウォーター法による算出方法と,食品成分表等に掲載されているエネルギーの算出方法とは,異なっています。

  • 具体的には,「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(以下,成分表2015とする)や「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下,成分表2020とする)で用いられている算出方法は,食品表示基準で定められている修正アトウォーター法による算出方法と異なります。

以下で順番に見ていきましょう。

成分表2015の計算方法:基本的には,可食部100g当たりのたんぱく質・脂質・炭水化物の重量に,各食品・各成分ごとに異なるエネルギー換算係数を乗じて足し合わせることで算出しています(Ref)。

  • 食品ごとに異なるエネルギー換算係数が用いられていることが重要なポイントです。
  • たとえば,精白米のエネルギー換算係数は,たんぱく質:3.96,脂質:8.37,炭水化物:4.20です。修正アトウォーター法の4・9・4と比べると,かなり違っていますよね。精白米のエネルギー換算係数は,「日本食品標準成分表の改訂に関する調査」(科学技術庁資源調査会編資料) の考察に基づいて決定されています。
  • その他,「FAO/WHO合同特別専門委員会報告」に基づいて決定された食品もありますし,アトウォーター係数が適用された食品もあります。
  • なお,上記成分の他に,有機酸やアルコール由来のエネルギーも考慮されています。
  • また,きくいも・こんにゃく・きのこ類・藻類・し好飲料類の昆布茶は,アトウォーター法によって求められた算出方法に0.5を乗じて算出しています。

成分表2020の計算方法:成分表2015の方法から大きく変わり,組成成分から特定のエネルギー換算係数によって算出する方法に変更されています(Ref)。

  • 食品ごとのエネルギー換算係数の変更は,原則ありません。
  • エネルギー換算係数は次の通りです:アミノ酸組成によるたんぱく質:4,脂肪酸のトリアシルグリセロール当量:9,利用可能炭水化物(単糖当量):3.75,食物繊維:2,ソルビ トール:2.6,マンニトール:1.6,マルチトール:2.1,還元水あめ:3.0,その他の糖アルコール:2.4,酢酸:3.5,乳酸:3.6,クエン酸:2.5,リンゴ酸:2.4,その他の有機酸:3,アルコール:7

このように見ると,食品表示基準で定められている修正アトウォーター法は,成分表2015の方法とも成分表2020の方法とも異なるわけです。

成分表2020を使って食品表示基準の「熱量」を算出する方法

食品表示基準の「熱量」は成分から計算するのが望ましい

栄養成分表示には食品成分表を使うことは認められていますが,食品表示基準の「熱量」と食品成分表の「エネルギー」では算出方法が異なるため、修正アトウォーター法の計算方法を使って算出するのが望ましいとされています(Ref)。

  • 栄養成分表示の根拠として,食品成分表を用いることは認められています(Ref)。
  • しかし,上記で見たとおり,栄養成分表示の「熱量」と食品成分表の「エネルギー」とでは算出方法が異なっています。そのため,たんぱく質や脂質等のエネルギー産生栄養素の量が同じであったとしても,算出される熱量・エネルギーが異なる場合が生じます。
  • そのように考えると,栄養成分表示のために食品成分表を用いてエネルギーを表示しようとするのであれば,食品成分表のエネルギーをそのまま使うのでなく,食品表示基準で定められている修正アトウォーター法の計算方法を用いて算出するのが望ましいでしょう。

成分表2020を使って「熱量」を算出する方法

修正アトウォーター法を用いた熱量の算出方法を再掲します。

ケースA糖質と食物繊維を分けて記載しない場合:
熱量(kcal) = たんぱく質(g) × 4 + 脂質(g) × 9 + 炭水化物(g) × 4
*きくいも・こんにゃく・藻類・きのこ類の場合は,算出されたエネルギー値に0.5を乗じる

ケースB:糖質と食物繊維を分けて記載する場合:
熱量(kcal) = たんぱく質(g) × 4 + 脂質(g) × 9 + (糖質(g) - アルコール(g) - 有機酸(g) - 難消化性糖質(g)) × 4 + 食物繊維(g) × 2 + アルコール(g) × 7 + 有機酸(g) × 3 + 難消化性糖質(g) × 特定のエネルギー換算係数

下記では,ケースごとに,成分表2020を使用して,食品表示基準の「熱量」を算出する方法見ていきます。

ケースA:計算は非常に簡単です。成分表2020の「たんぱく質」・「脂質」・「炭水化物」をそれぞれ使用してエネルギー換算係数を乗じれば問題ありません。

  • ここでいう「たんぱく質」・「脂質」・「炭水化物」は,成分表2020でその通りに記載されている成分を用います。決して,「アミノ酸組成によるたんぱく質」や「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量」,「利用可能炭水化物(単糖当量)」ではありません。

ケースB:こちらは少し複雑な計算が必要になります。

  • 「たんぱく質」・「脂質」・「炭水化物」は,それぞれ上のケースと同じものを使用すればOKです。
  • 「アルコール」・「有機酸」・「食物繊維総量」は,成分表2020に掲載されているものをそのまま使用すればOKでしょう。
  • 「糖質」は成分表2020年版では掲載されていませんので,食品表示基準に従って計算します。すなわち,「炭水化物」 - 「食物繊維総量」です。
  • 「難消化性糖質」は,少々迷うところですが,「ソルビトール」・「マンニトール」を足し合わせるのが適切かと思います。成分表2020では「難消化性でん粉」や「低分子量水溶性食物繊維」(難消化性オリゴ糖類)は食物繊維に分類されているため,これに含めるのは不適切になる場合があります。これらのエネルギー換算係数としては,食品表示基準で定められているソルビトール:3,マンニトール:2を採用しましょう。

まとめ

今回は,成分表2020を使った食品表示基準における「熱量」の算出方法を紹介しました。まとめると下記のようになります。

  • 食品表示の「熱量」の算出には修正アトウォーター法が用いられる
  • 食品表示の「熱量」の算出方法と食品成分表の「エネルギー」の算出方法とは異なる
  • 食品成分表を使用して食品表示の「熱量」を算出する場合には,別途成分から計算するのが望ましい
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