平均への回帰についてわかりやすく解説【ヘルスリテラシーを身につけよう①】

ヘルスリテラシー
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みなさん,こんにちは.
シンノユウキ(shinno1993)です.

今回から「ヘルスリテラシーを身に着けよう」の連載をスタートします。おそらく少ししかやらないですし,更新の時期も未定ですが,読んでくださった方,また書いている私のヘルスリテラシーが少しでも向上すればと思っています。

初回の今回は「平均への回帰」について取り上げます。
では行きましょう!

「優生学」の誤り

「優生学」という考え方があります。
これは,劣っているとされる遺伝子を排除し,優れているとされる遺伝子を残していくことで,人類の遺伝子を向上させようとする学問,または考え方のことを指します(Google検索の結果)。具体的な例をあげると,頭の良い・悪いが遺伝によって完全に決まると仮定した場合,頭の良い人だけが子供を産み,悪い人は産まないようにすると,生まれてくる子供はどんどん頭がよくなっていくと考えられます。このような営みでもって人類全体の遺伝子が向上していくとするのが「優生学」の考え方です。

このような考え方は,歴史を紐解くと多くの国で見られます。たとえば,ナチス政権下のドイツでは,遺伝性の疾患を持つ患者たちに対して,強制的に断種を可能とする法律:断種法が制定されていました。加えて,このような話はドイツだけでなく,欧米諸国でも見られましたし,実は日本でもそれに関連する法律は制定されていました(R)。そう考えると,優生学に関する歪曲された考え方は広く信じられていたことが実感できます。

もちろん,このような考え方が倫理的に誤りであることは言うまでもありません。しかし,実は科学的にも妥当とは言えないのです。その理由の一つが,今回紹介する「平均への回帰」です。以下では,平均への回帰について具体的に紹介し,それを学ぶことで健康情報を読み解く際にどのように役に立つのかを紹介します。

平均への回帰とは?

平均への回帰とはどのようなものなのかを,ここで紹介していきます。

優生学という概念の形成に寄与したのは,学者のフランシス・ゴルトンとされています(R)。彼は優生学に関連する遺伝学者でもあり,同時に統計学者でもありました。彼は,優生学的な考えを提唱しつつ,同時にそれに対する反論にもなるような研究も行っていました。それは1886年に「Regression Towards Mediocrity in Hereditary Stature」(身長の遺伝における平凡への回帰)という論文として世に公表されています。

身長は,多くの場合に遺伝的な要素によって決定されています。高身長の両親のもとに産まれた子供は,両親の遺伝子を引き継ぎ,高身長になると考えられていました。つまり,十分な数に対して調査を行った場合,両親の身長の平均値と子供の身長とは,完全に比例するはずなのです。

しかし,実際に調査しみると,完全にそうはなっていないことが判明しました。下記のグラフは,論文中で示された非常に有名なグラフです。

子供の身長をy,両親の身長の平均をxとした場合,双方が完全に比例する場合は y=x の関係が成り立ちます。これがグレイの破線で示した部分です。しかし,実際に調査してみると,両者には緑の線のような関係が明らかになりました。すなわち,両親が高身長であっても,子供の身長は予想よりも低めで,両親が低身長であっても子供の身長は予想よりも高めだったのです。つまり,高身長の両親のもとに産まれた子供は,平均すると両親の身長よりも低め(平凡に近い)な傾向が明らかになったのです。これをゴルドンは「平凡への回帰」(Regression Towards Mediocrity) と呼びました。

なので,優生学の考えを適用し,知能が高いとされる人たちだけが子供を産んだとしても,その営みはうまくいきにくいことが示されました。身長のように客観的に測定可能な分野でも平均への回帰が観察されているのであれば,確固たる測定法が用意されていない知能に関しては,適応がなおさら困難であると考えるのが妥当であろう,ということですね。もちろん,優生学に関する反論はこれだけではありませんが,平均への回帰は優生学的な考えが科学的にも妥当でないことを示したのです。

なぜ平均への回帰が起こるのか?

では,なぜこのような平均への回帰が起こるのでしょうか。
これは私たちの身近で観察される事象の多くが「偶然」によって左右されているからです。

先ほどの身長を例にしてみましょう。
身長は,遺伝子によって完全に決定されているわけではありません。その個人の成長過程で十分に栄養素を取れていたとか,骨に対する刺激があったとかをはじめ,様々な要因が身長を決定しています。これらの要因によって,遺伝子から予測される身長よりも「偶然」に身長が高くなる場合は十分に考えられます。

その場合,見た目の身長は高いですが,遺伝子的な身長はそれ相応のものではありません。つまり,見た目の身長が高い人の中には,遺伝子的に高くなることがわかっていた人と,偶然にも身長が高くなった人の二通りがあります。前者の遺伝子的に身長が高い人の子供は身長が高くなる可能性が高いでしょうが,後者の人の子供では,親ほどの身長になるためには偶然の要素が必要になりますので,高い身長を得ることは難しいかもしれません。このようにして,身長は平均に回帰されていきます。

前置きが長くなりましたが,このことを私たちの健康に対して適応してみましょう。

身近な例として血圧値を考えてみます。
体感?している方もいらっしゃるかもしれませんが,血圧は1日の中でも大きく変動します。朝は低く,だんだんと高くなっていき,夕方から夜にかけて下がります(R)。また,食事や運動,喫煙によっても血圧が上下することが知られています(R)。加えて,ストレスによっても血圧は上昇するとも言われています(R)。そのため,平日の夕方に血圧を測定した時よりも,その翌日の朝に測定した血圧のほうが低くなるのは十分に考えられることかと思います。血圧は変動要因が明らかになっている部分が多いため,それらの測定条件を合わせることで変動をある程度は抑えることができますが,それでもストレスや食事・運動状況を完全に一致させることは難しいですよね。そのため,ある程度厳密に規定された血圧の測定であっても,様々な要因がその測定値を揺らしてしまうのです。

実際に健康情報を見極めてみる

では実際に健康情報を見極めてみましょう。
以下は,平均への回帰を知らない人が調査を行った場合の例文です。

200人を対象に調査を実施した。調査当日に血圧を測定し,高血圧(収縮期血圧140mmHg以上/拡張期血圧90mmHg以上)であった40人に対して食事指導を実施し,その2週間後に血圧を再度測定した。その結果,40人の収縮期血圧の平均値は5mmHg下がっていた。したがって,今回実施した食事指導には血圧を下げる効果があったと考えられる。

一見すると,食事指導によって血圧が下がったと見えるかもしれませんが,この食事指導の効果には,「平均への回帰」の影響が含まれると考えられます(もちろん,食事指導の効果が全くないと言いたいわけではなく,あくまでもこの調査では食事指導の効果を明らかにできないという意味です)。血圧は多くの要因によって揺れてしまうので,高血圧と判断された40人の中には,この時だけ「偶然」血圧が高く,たまたま引っかかってしまったという人もいることでしょう。つまり,この40人の中には,

  • もともと血圧が高い人
  • たまたま血圧が高かった人

の2通りの人がいると考えられます。そのため,2週間後に再測定した場合は,たまたま血圧が高かった人は正常血圧に戻る可能性が高いでしょう。そうなった場合,40人の平均で見た場合には血圧は下がって見えてしまうのです。平均への回帰を知らないと,「食事指導には効果があった!」と思ってしまうかもしれません。特に指導した・サプリメントを摂取したなどの介入が見られる調査・研究では,この点には注意しないと解釈を大きく誤ります。

では,どのようにすれば,このような調査手法を見極めることができるでしょうか。
ポイントは「対照群の有無」です。先に紹介した調査の場合,血圧が下がった原因が平均への回帰によるものなのか,食事指導によるものなのかはわかりません。それを明らかにするためには,同じ高血圧患者の中で食事指導を受ける群と受けない群の2つを設け,その2つを比較する必要があります(実際にはプラセボ効果も考慮しなくてはなりません。プラセボ効果については次回以降に詳しく紹介します)。そうすることで,平均への回帰の影響を除いて,食事指導の効果そのものを知ることができるのです。

健康情報を見る際は,この「平均への回帰」が起こっていないかを見てみることをオススメします。注意してみてみると,ダイエット・サプリメントの広告とか,テレビのダイエット企画などで「平均への回帰」の実例を見ることができますので,ぜひ気にしてみてください。

まとめ

今回は「ヘルスリテラシーを身に着けよう」の第1回として平均への回帰について紹介しました。次回は「プラセボ効果」について紹介したいなと思っています。

連載目次

  1. 平均への回帰についてわかりやすく解説【ヘルスリテラシーを身につけよう①】現在のページ
  2. プラセボ効果をわかりやすく解説【ヘルスリテラシーを身につけよう②】
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