線形計画法を用いた食事最適化法について(日本での研究)

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

前回は線形計画法を用いた食事最適化法についてアメリカでの研究を例として紹介しました:

実際に日本人を対象に食事最適化法を利用する場合,アメリカでの研究結果のみを参照するのでは不十分です。食事の内容も異なるでしょうし,制限条件となる食事摂取基準の値も異なるからです。

そこで今回は,日本人を対象に実施された食事最適化法のアプローチを,以下の文献をもとに紹介していきます:

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研究の方法

食事データの収集方法

現在の日本人の食事として,季節ごと4日間(4×4=16日間)の食事記録データが参照されました。これは大阪・長野・鳥取に住む31歳~69歳の男女,合計174人を対象に行われた調査データを使用しています。これで得られたデータから食品群別荷重平均成分表を作成し利用しています。

線形計画法の目的関数

線形計画法については以前紹介した記事と同様の方法が用いられています。目的関数は19の食品群摂取量における最適値と観察値との差の絶対値を観察値で割った値とされました:

ただし,絶対値を使用しているためこのままでは線形計画法は利用できません。そのため,正(Positive)を表すPと負(Negative)を表すNの2つの変数を導入することで,目的関数を以下のように定義しました:

PNを足した値は,当初求めたかった絶対値となります。以上より,新しい目的関数は以下のようになります:

制限条件を満たしながら,これを最小化する摂取量を目指します。

線形計画法の制限条件

今回の研究で用いられている制限条件には,大別すると次の2つがあります:

  • 食品に関する制限条件
  • 栄養素に関する制限条件
  • 食品に関する制限条件:基本的には,観察された食品群別摂取量の95%タイル値を上回らないように制限されました。また,主要な食品群(穀類・野菜類・肉類・乳類・果実類)については摂取量の5%タイル値を下回らない設定もなされました。ただし,日本人成人では摂取量が少なく,かつ栄養学的に摂取が望まれる食品群(全粒穀物と低脂肪の乳製品)については例外的に観察された最大摂取量を上回らないように設定されています。

  • 栄養素に関する制限条件:「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の基準値を満たすように制限されています。性・年齢別に基準値は設定されており,RDA(推奨量)またはAI(目安量)を満たし,かつUL(耐用上限量)以下になるように,さらにエネルギー産生栄養素および食物繊維・ナトリウム・カリウムについてはDG(目標量)の範囲内に含まれるように設定されました。

以前紹介したアメリカの研究では,食品に関する制限と栄養素に関する制限を分けたモデルとしていましたが,今回の研究ではその両方を含んでいます。

結果

食事最適化法を用いて,最適な栄養素摂取量および食品群別摂取量が示されました。その結果を要約すると以下のようになります:

  • 30~49歳の果物および野菜摂取量を除き,大きな食品群分類(穀類・野菜類など)では,現在の食事から大きく変更する必要はなかった
  • ただしより細かい食品群となると,全粒穀物や低脂肪乳製品の大幅な増加(全粒穀物にいたっては10倍以上!),全脂肪乳製品および調味料(塩を含む)の大幅な減少が必要となった
  • 全体的な食物の摂取重量については,若い年齢層(30~49歳)では摂取量を増やす必要があったが,高齢層(50~69歳)ではそれほど増やす必要はなかった

全粒穀物,それほど一般には普及していない印象がありますものね。理想的には精製穀物をすべて全粒穀物に代替するのが望ましいでしょうが,現在の摂取量を考えると一斉に推奨するのは難しいかもしれません。

まとめ

今回の研究の結果をまとめると以下のようになります:

  • 線形計画法を用いた食事最適化法は,食事摂取基準(栄養素に基づく食事ガイドライン)の基準値を,日本人の現在の摂取量を理想的な摂取量に変換することができた
  • 全体的な傾向として,全粒穀物と低脂肪乳製品,野菜や果物の摂取量を増やす必要があり,さらに,全脂肪乳製品や調味料(塩分を含む)の摂取量を減らす必要があった

「現在の食事をどの程度変更すれば理想的な食事になるのか」についての答えを提供する可能性のある,とても面白い研究でした。

研究中で紹介された食事最適化法は,Excelでも試すことができます。次回以降は,Excelに含まれるソルバーを用いた最適化手法について少しずつ紹介していきたいと思います。

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