記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

私たちは本当に昨日の食事を覚えているのか。今回は,記憶を基にした食事評価法に寄せられている批判について紹介し,それを具体的に解説してみたいと思います。

前回の記事では,食事ガイドラインに寄せられている批判について紹介しました。その批判は,食事ガイドラインの作成根拠となっている食事評価法は正しくないのでは?というものでした。

今回はその批判について紹介し,それを具体的に解説してみたいと思います。

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記憶に基づく食事評価法

前回の記事でも少し紹介しましたが,復習です。食事評価法には主に,食べたものをリアルタイムで記録する方法(食事記録法)と,前日に食べた食事を思い出してもらう方法(24時間思い出し法),質問紙などでリストの中から食べた食品とその量を選んでもらう方法(食物摂取頻度調査法)があります。そのうち,後者の2つは記憶に基づく食事評価法と言えます。

こういった記憶に基づく食事評価法に関して批判が集まっているわけです。ではその根拠は,一体何なのでしょうか。Archerらは,以下のようなグラフでもって記憶に基づく食事評価法が正しくないと批判しています:

このグラフは,生理学的にもっともらしくない報告をした米国女性の割合を肥満度別・調査年ごとに算出しています。ここで「生理学的にもっともらしくない」とした基準は,エネルギー摂取量が基礎代謝量×1.35未満であった場合のことを指しています。では,この「生理学的にもっともらしくない」というのはどういった基準で判断されているのでしょうか。

生理学的にもっともらしいエネルギー摂取量とは?

ここでは,「生理学的にもっともらしい」エネルギー摂取量に焦点を当てて解説していきます。

なおここでは,一般的に「カロリー」と呼ばれることの多い「エネルギー」は,以下「エネルギー」と統一することとします。念の為,ご承知おきください。

人は1日にどのくらいのエネルギーが必要?

まずは人が1日にどのくらいのエネルギーが必要なのかを整理しておきましょう。

人が1日に必要なエネルギー量は,その人の性別,年齢,体重,身長,活動量などによって様々です。WHOによると,エネルギー必要量は以下のように定義されています:

The energy requirement of an individual is the level of energy intake from food that will balance energy expenditure when the individual has a body size and composition, and level of physical activity, consistent with long-term good health;

翻訳)個人のエネルギー必要量は,体格と体組成,身体活動のレベルと長期間の健康を維持できている際のエネルギー消費量と均衡のとれた,食品からのエネルギー摂取量のレベルです。

引用)FAO/WHO/UNU, Expert Consultation. "Energy and protein requirements." World Health Organ Tech Rep Ser 724 (1985): 1-206.

要するに,体重や筋肉量,脂肪量に変化がなく,健康で普通に動いている時に食べているエネルギー量が,それまさにエネルギーの必要量ですよってことです。体重が減っている場合はエネルギー消費量に比べてエネルギー摂取量が少ないので,エネルギー摂取量→エネルギー必要量とはなりませんが,上記の条件を満たしている場合は

エネルギー必要量=エネルギー消費量=エネルギー摂取量

となると考えられています。

エネルギー必要量 = 基礎代謝量 × 身体活動レベル

ただし,エネルギーの消費量を求めることは難しいので,暫定的にエネルギー必要量を算出する式があります。成人の場合は以下の式で算出できます:

推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル

引用)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000083871.pdf

基礎代謝量というのは,人が運動などの活動をせず安静にした状態で消費されるエネルギー消費量のことです。なんにもしなくても,生きているだけで消費してしまうエネルギー量のことですね。

これに身体活動レベルと呼ばれる活動係数を乗じることでエネルギーの必要量を算出しています。この身体活動レベルは,その生活の内容に応じて3つの段階に分かれており,それぞれ1.5, 1.75, 2.0 と設定されています。

なので,基礎代謝量が1500kcalで身体活動レベルが普通くらいの人は2600kcalくらいのエネルギー量が必要ということになりますね。

基礎代謝量×1.35以上くらいはエネルギーを摂取しているはず

ここで生理学的にもっともらしいエネルギー摂取量の話に戻りましょう。先ほどのエネルギー必要量の話では,身体活動レベルが低めの人でも基礎代謝量×1.5くらいのエネルギーが必要と考えられるとお伝えしました。

では,それ以下の人だとどうでしょう。たとえば,エネルギーの摂取量が基礎代謝量×1.35よりも少ない場合,明らかにエネルギーは足りていないですよね。体重が減ってしまいそうですし,健康も害しそうです。

なので,食事評価の結果,エネルギーが基礎代謝量×1.35よりも少ない場合は「生理学的にもっともらしくない」とArcherらは判断したというわけなのです。

グラフの意味するところは?

ここで,先に示したグラフの話に戻りましょう。

このグラフでは,それぞれの調査で行った食事評価において,エネルギー摂取量が基礎代謝量×1.35未満だった人の割合を示しています。緑色の棒グラフがBMI普通の人を示しており,たとえば2009-2010年の調査だと58%の人が「生理学的にもっともらしくない」エネルギー摂取量を報告したのです。

こういったデータを根拠に,Archerらは記憶に基づく食事評価法を批判しているのですね。

まとめ

今回は記憶に基づく食事評価法に寄せられている批判について紹介し,その理由を「生理学的なもっともらしさ」の観点から紹介しました。次回は,なぜこのような結果になったのか,その理由を解説してみたいと思います。

連載目次

  1. 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる
  2. 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から現在のページ
  3. “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
  4. “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
  5. 記憶に基づく食事評価法の妥当性は確認されている
  6. テクノロジーを用いた食事評価法について概観する【栄養疫学研究の展望】
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