食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

今回から何記事かに分けて,現在の食事ガイドライン(ひいては食事評価法)に集まっている批判について紹介し,その理由を解説,そして,そういった批判に関して現在のパラダイムを構築した先人たちからのの反論を紹介したいと思います。

なお,本ブログは栄養学の特別の知識を持たない方でも,栄養学に興味があれば読んでいただける内容となっています。なので,極力専門用語も少なめにし,専門家の方から見ればまどろっこしいと感じる部分もあろうかとは思いますが,本ブログの特性上,ご了承ください。

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今回の記事について

今回の記事では,現代の食事ガイドラインへの批判について紹介します。

しかし,一方的にその批判を紹介しても,その内容がどのように悪いのか,などについては分かりづらいですよね。そこでまずは,食事ガイドラインがどのように作られるのかといったことを整理したいと思います。

食事ガイドラインはデタラメなのか?

栄養学の特別の知識を持たない人たちは,単独で健康的な食事をとることは難しいです。どのような食事が健康に良い・悪いという知識もありませんので,どのような食材をどのくらい摂取すれば良いのか,また摂取してはいけないのかということは非常に分かりづらいものです。

そこで,「食事ガイドライン」が作られます。「守っていればある程度は健康的な食事になりますよ」という基準を作り出すものです。「食塩は1日8グラムまで!」といったことはよく聞かれるかもしれませんが,それも食事ガイドラインに基づいたものです。

日本においては,厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準」が食事ガイドラインにあたります。国によって食事の内容は違いますし,また体質なども異なりますので,それぞれの国で作成されています。

しかし,食事ガイドラインはその策定根拠に問題があるのでは?といった内容の論文が発表され,議論を呼びました。アメリカの食事ガイドラインの話ですが,サウスカロライナ大学のArcherらが2013年に公表した論文では,アメリカの食事ガイドラインの策定根拠となっている食事評価法に問題があり,公的な政策とするには限界がある,という事が書かれています【1】Archer, Edward, Gregory A. Hand, and Steven N. Blair. "Validity of US nutritional surveillance: National Health and Nutrition Examination Survey caloric energy intake data, 1971–2010." PloS one 8.10 (2013): e76632.

これは一体どういうことなのでしょうか?

食事ガイドラインは栄養疫学研究の積み重ねによって作られる

まずは食事ガイドラインの作られ方から見ていくことにします。食事ガイドラインは主に食事と健康との関連を調査した疫学研究を基にして作られます

少し具体的に説明します。こういった調査では主として,特定の集団において定期的に食事と健康状態とを検査します。そして,調査開始から何年か経った後に,病気にかかった人とかかっていない人とで食事の内容などを比較します。そして,食事の内容に大きな違いがあった場合,それが病気を発生・予防する因子であるとわかるわけです。

こういった研究を積み重ねていくことで食事ガイドラインが作成されます。たった1つの研究では確かな事は言えませんよね。もしかしたら他の要素と絡み合って食事が原因のように見えている可能性もありますし,地域が違ったら違う結果が得られるかもしれません。なので,こういった研究を1つづつ積み上げ,帰納法的なアプローチでもって食事ガイドラインを作成していきます。

しかし,このうち,食事を評価する方法に問題があるのではないか?と前述のArcherらは言っているわけですね。

どのように食事を評価するのか

では,どのように食事を評価していくのか,簡単に解説していきます【2】Shim, Jee-Seon, Kyungwon Oh, and Hyeon Chang Kim. "Dietary assessment methods in epidemiologic studies." Epidemiology and health 36 (2014).

まずは対象者に食事を記録してもらう方法です。特定の期間に食べたものを全て記録してもらいます。料理名や食材名,摂取量などの全てです。摂取量は重量を量ってもらう場合が多いです。実際に食べたものを記録してもらうので,その人の記憶とは関係ないですよね。なので,比較的正確に食べたものを評価することができます

その他,前日に食べた食事を思い出してもらう方法もあります。プロの調査員が対象者に対して「昨日は何を食べましたか?」などのように聞く方法です。こちらは,対象者に記録してもらうのではなく,聞き取りによって調査します。したがって,実際の食事をそのまま書き写すというのではなく,ある程度が記憶に基づいてしまうという問題点があります。

その他,調査用紙に特定の期間の間に,何をどのくらいどの程度食べたかを選んでもらうという調査法もあります こちらはかなり簡単で,対象者に対しては大きな負担がかかりません。また,調査用紙に記入してもらうので,その後の分析にも手間がかかりません。そのため,大人数が参加する調査では,こちらが好んで用いられています

これらの調査法のうち,前述のArcherらがその妥当性に異を唱えているのが,記憶に基づく食事調査法で,特に2つめの前日に食べた食事を思い出してもらう方法です。この方法が,今回紹介した論文では批判の対象となっています。アメリカの食事ガイドラインでは,この方法によって測定された研究が基で策定されたものもあり,そのために食事ガイドラインはデタラメだとなっているわけです。

ではなぜ記憶に基づく食事評価法の妥当性に疑惑がつくのでしょうか。これについて次で紹介していきます。

まとめ

今回は食事ガイドラインに寄せられている批判を紹介し,また食事ガイドラインの作成方法などについても整理しました。次回で,その批判の内容について具体的に解説していきたいと思います。

連載目次

  1. 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる現在のページ
  2. 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から
  3. “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
  4. “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
  5. 記憶に基づく食事評価法の妥当性は確認されている
  6. テクノロジーを用いた食事評価法について概観する【栄養疫学研究の展望】

参考文献

参考文献
1 Archer, Edward, Gregory A. Hand, and Steven N. Blair. "Validity of US nutritional surveillance: National Health and Nutrition Examination Survey caloric energy intake data, 1971–2010." PloS one 8.10 (2013): e76632.
2 Shim, Jee-Seon, Kyungwon Oh, and Hyeon Chang Kim. "Dietary assessment methods in epidemiologic studies." Epidemiology and health 36 (2014).
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