みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
食事評価には様々な限界がありますが,その限界をテクノロジーが補完し,また新たな方法をテクノロジーが生み出す可能性があります。今回は,食事評価におけるテクノロジーの使用について概観していきます。
前回は,記憶に基づく食事評価法の批判に寄せられている批判について紹介しました。多くの研究が,記憶に基づく食事評価法は,その妥当性が確認されており,そのために栄養疫学研究において有用であるとする証拠を提出しています。
ただし,前回までに行われた問題提起(記憶に基づく食事評価法は生理学的にもっともらしくないなど)が,記憶に基づく食事評価法に寄せられている今までの懸念の一部でも強化することは事実です。
そこで今回は,食事評価法の構造的な問題を解決するための手法(主にテクノロジーを活用した方法)について概観したいと思います。
自動化された24時間思い出し法
最初に紹介するのは「自動化された24時間思い出し法」です。ただ,これについて紹介するためには,まずはなぜFFQが栄養疫学研究において多用されているのかを理解しておく必要があります。
なぜFFQが使用されているのか
栄養疫学研究において主に用いられているFFQ(食物摂取頻度調査法)は,アンケートによってある程度長期間の食事の内容を聞き取る方法です。
この方法が主に用いられているのは,調査に必要な「コスト」に大きな理由があります。伝統的に用いられてきた食事記録法(紙にその日食べたものを記録してもらう)や24時間思い出し法(前日の食事をインタビューアーが聞き取る)は,大人数に実施するために非常にたくさんのコストが必要になります。記録してもらった食事を栄養計算可能な形にコーディングしたり,聞き取り調査には訓練を受けたインタビューアーが必要だったりと多くのコストがかかってしまうのです。
そのようなコストを避けるためにFFQが開発されたという背景があります(習慣的な摂取量を知りたかったという理由もあります)。FFQだとアンケート用紙を配布するだけですみますし,OCRなどの技術を活用することで分析も用意になります。こういったコスト面におけるメリットのために,FFQは広く使用されています。
ASA24
しかし,伝統的な調査手法,ここでは24時間思い出し法でも,テクノロジーの力を借りることでそのようなコストを削減できる可能性があります。その代表的なものが,アメリカで実際に研究に使用されているASA24という手法です。
ASA24というのは,Automated Self-Administered 24-Hour Dietary Recallの略で,直訳すると「自動化された自己管理式24時間思い出し法」とでもなりましょうか。従来の24時間思い出し法は,インタビューアーによる面接形式での聞き取りが基本でした。しかし,この方法は,対象者がWeb上に表示される質問に答えていくだけで調査が完了します。なので,非常に低コストで実施できる方法です【1】転載)http://innerstate.org/project/asa24。
ASA24による調査は,以下のような標準化された方法によってなされます:
せっかくなので簡単に翻訳しますと,
- クイックリストの作成:料理名・食べた時刻などを尋ねられます。また,どこで食べたか誰と食べたかなども尋ねられます。
- 食間の確認:食事と食事の間に何を食べたか,また朝食前や夕食後に何を食べたかを尋ねられます。
- 詳細:クイックリストで記録された食べ物について,調理法や量,その他詳細について尋ねられます。
- 忘れられた食品:一般的に忘れられがちな食品や飲み物について尋ねられます。
- 最後の機会:食品や飲み物を追加するための最後の機会を与えられます。
- 習慣的な摂取量:食べた物について,それが習慣的に摂取している量と同等だったか,多かったか,少なかったかなどを尋ねられます。
- 補足:最後に簡単な質問や,サプリメントの使用の有無などを尋ねられます。
とまぁこんな感じの調査になります。この流れは,AMPM:Automated Multiple Pass Methodとして体系化されています。調査の標準化などにも役立つ,幅広く利用されている方法です。
モバイル機器による食事記録
昨今のスマートフォンの普及に際して,モバイル機器による食事記録にもしっかりと触れる必要があるでしょう。
「スマートフォン」が一般的
私が学部生のころ,革新的な技術を持ちいた食事評価法として,PDA端末を活用したものが紹介されていました。こちらの文献を主に参照していました。
私の修論のテーマの1つがITを用いた食事評価法の開発だったこともあり,この文献は読み込みました。2012年に公表された論文なのですが,この当時はモバイル機器といえばPDA端末のことでした。今ほどスマートフォンが普及していなかったので,当然ですね。
PDAは,日本ではあまり目にすることがないかもしれません。いわゆる「タブレット端末」のようなものをイメージいただくと分かりやすいかもしれませんね。しかし,今ではPDA端末はそれほど使用されておらず,代わりにスマートフォンが普及しています。時代の流れ早いですね。
様々なアプリケーションが開発されている
日本では「あすけん」や「カロリーママ」などが有名です。「あすけん」については,その妥当性が報告されており,日本人女性における栄養素摂取量の推定に有効な方法であると結論しています。海外においては「My Meal Mate」が妥当性も確認されているアプリケーションの1つしてあげられます。
このように,料理を選び,その後その摂取量を選択します。非常に手軽ですね。
このようなスマートフォン・アプリケーションを利用することで,食事評価におけるどのようなメリットがあるのか。それは記録が簡便になることによる記録のスキップの防止です。面倒だから記録しないとか,外出先だから記録しないなどを防ぐことができると考えられます。
もちろん,伝統的な食事記録法よりも,同一の食品を食べた際の精度は落ちてしまうでしょう。しかし,先に述べたような記録のスキップ,また食行動変容の可能性を小さくできれば,それによって全体として見たときの精度は向上するかもしれません。
画像認識による食事評価
最後に紹介するのが,画像認識による食事評価です。本ブログでも,過去にディープラーニングを活用した食事の画像認識について紹介しました:
東京大学の研究者らが開発した「FoodLog」は食事を写真に収めるだけでその栄養価を算出してくれますまた,電気通信大学の研究者らが開発した「DeepFoodCam」も同様の機能で,101種類の食事画像を認識して分類してくれます。
また,「NutriNet」と呼ばれる畳み込みニューラルネットワークを活用した食事画像認識のシステムは520種類の食品についておよそ90%の精度で分類できることを示しました。
これらの画像認識による食事評価は,それ単体による栄養素摂取量の算出を主な目的としたものではありません。
自己管理による糖尿病管理プログラムの機能の1つとしてFoodLogを掲載し,それを用いて食事の改善効果を測定した研究では,FoodLogを掲載することにより食事を記録する割合が増え,またヘモグロビンA1Cなどの指標に改善が見られたとのことです。
つまり,現状では写真を撮ることによる行動変容を目的としたものが目立ちます。
もちろん,機械学習界隈の進歩の速さ,またデータが非常に集まりやすいという社会的な背景を加味すると,これによって食事からの栄養素推定が十分に可能になるという未来もありえるかもしれません。しかし現状では,伝統的な食事評価法におけるサブとしての利用や,栄養素の推定を主目的としない方法で活用されるのが一般的なところかと思います。
まとめ
記憶に基づく食事評価法に関する連載も今回で最後です。
記憶に基づく食事評価法に寄せられている批判を紹介し,それに対する反論,最後にはその解決策のようなものを提示しました。
最後はテクノロジーを活用した食事評価に踏み込みましたが,このテーマは私としても非常に興味のあるテーマの一つだったりします。連載は終わりですが,引き続き別の場所でも触れていけたらなと思っています。
連載目次
- 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる
- 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から
- “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
- “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
- 記憶に基づく食事評価法の妥当性は確認されている
- テクノロジーを用いた食事評価法について概観する【栄養疫学研究の展望】現在のページ
参考文献
↑1 | 転載)http://innerstate.org/project/asa24 |
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