“偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】

栄養疫学
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みなさん,こんにちは.
シンノユウキ(shinno1993)です.

今回は“偽の記憶”が記憶に基づく食事評価法及ぼす影響について取り上げてみたいと思います。

前回は,“社会的望ましさ”が食事評価の結果を歪ませる可能性について紹介しました。

その際,記憶に基づいて算出された食品・栄養素の摂取量は,社会的に望ましい方向に歪むことを解説しました。野菜や果物は多めに申告され,エネルギーは少なめに申告される傾向がありましたね。

今回は,“社会的望ましさ”とは別の要因,すなわち“偽の記憶”が記憶に基づく食事評価法に与える影響について見ていきます。

偽の記憶とは?

はじめに“偽の記憶”について簡単に紹介します。

以下の記事で偽の記憶について紹介していますので,簡単にで構いませんので,ご覧ください。

また,この分野の第一人者,エリザベス・ロフタス教授のTEDトークもわかりやすく,簡潔にまとめられています。

記憶はいとも簡単に上書きされることが知られています。一度記憶したことは,ずっとそのままの形で存在し続けるのではなく,かなりダイナミックにその姿を変更していきます。元々の記憶と強い関連を持つものでなくても,人は新しい情報に触れると,それによって既存の記憶を上書きしてしまったりします。また,上書きまでされなくても,新しく入ってきた情報の方を正しいと思い込んでしまい,それによって以前の記憶が記憶の引き出しの奥底の方に隠れてしまったりします。

また,変更されるだけでなく,有りもしない事柄を捏造してしまうこともあります。そしてこれは,他人によって無意識のうちに植え付けられることもあります。質問などの何らかの外からの情報が追加されることで,容易に植え付けられることが知られています。また,記憶にアクセスし,それを思い出す際に捏造が行われる場合もあります。そしてこれも,比較的容易に起こりえてしまいます。

このように,以前の正しい記憶が誤った情報によって上書きされたり,また誤った情報で捏造されてしまったような記憶を,ここでは“偽の記憶”ないし“虚偽記憶”と呼びます。一般的には虚偽記憶という呼び方が浸透しているかもしれませんね。

その偽の記憶は,もちろん記憶に基づく食事評価法にも影響すると考えられます。以下では,食事評価法別にその詳細について見ていきたいと思います。

24時間思い出し方と偽の記憶との関係

24時間思い出し法とは,対象者に前日の食事を思い出してもらい,それによって食事を評価する方法です。熟練したインタビューアーが必要になります。

この方法では以下のようなやり取りが行われます。

栄養士
栄養士

昨日の朝食は何を食べましたか?

対象者
対象者

食パンとサラダ,スクランブルエッグを食べました。

栄養士
栄養士

食パンは何枚切りですか?
パンに何かつけましたか?
サラダにはどんな野菜が含まれていましたか?
付け合せにソーセージなんかも食べませんでしたか?

とまぁこんな感じのやり取りが行われます。
食べた食品がどのくらいの大きさだったのか,またそれによく使われる調味料や付け合せ,またサラダのように料理名で答えられた場合にその詳細な内容,さらに一般的に報告するのを忘れられがちな料理についても質問をします。

かなり探索的に質問しますよね。でもこうしないと食事の摂取量はかなり少なく報告されてしまいます。食べたものを忘れてしまうことはよくありますので,それを思い出してもらう必要があるのです。なので,このような質問は必須です。また,食事の量も正確に把握する必要があるため,画像や実物大のフードスケールも活用されます。

しかし,ここでやっかいな問題が生じます。偽の記憶です。

偽の記憶は,質問によって偽造されることがあります。たとえば,先ほどの質問の例では,付け合せとして忘れられがちな食材(この場合はソーセージ)について追加で質問しました。この際に,もしかしたら本当はソーセージを食べていないにもかかわらず,質問されたことによって,食べた記憶が捏造されてしまう可能性があるのです。

昨日の朝食の風景を思い出しながら,質問された“ソーセージ”という食品について頭の中にイメージを作り出す。以前も少し解説しましたが,偽の記憶の観点からすれば非常に危険なシチュエーションです。偽の記憶が生成されてもおかしくありません。実際には食べていないソーセージを食べたと認識してしまう可能性もあるでしょう。

その他,当然ながら食べたものを覚えていないという場合もありえますし,前日の食事と前々日の食事とを混同してしまったりといったことも十分にありえます。前日の食事を思い出す際に,意図しない方向に記憶が再構築されてしまう場合もあるでしょう。なので,前日の食事を思い出してもらうという方法は“偽の記憶”の強い影響を受けてしまう方法だといえます。

FFQと偽の記憶との関係

いきなり「FFQ」という言葉が登場してしまいましたね。FFQというのは,Food Frequency Questionnaire の略で,食事に関するアンケートのようなものです。以下のような感じの質問表になります:

Web上でFFQを試用できるアプリを作成していますので,興味のある方はお試し下さい。

さて,このようなアンケートでも,“偽の記憶”の影響は生じます。もっといえば,実は,この食品リスト自体が“偽の記憶”を生み出しやすい構造をしています。

FFQでは,食品とその目安量などがズラズラっと並びます。もうこれだけでも,偽の記憶について知っている方は「危ない!」って思うかもしれません。

食品のリストを見ながら,特定の期間(1週間や1ヶ月程度が多い)にそれをどのくらい食べたかを記入していきます。その際に,その食品を食べた場面を記憶の奥底から引っ張り出し,様々なノイズと組み合わせられながらそれに記入していくことになるでしょう。記憶が簡単に歪められることを考慮すれば,それで記入された情報が正しいとは考えにくいです。偽の記憶の影響を受けており,記憶が”改ざん”されていると考えるべきでしょう。

このように,FFQも“偽の記憶”と無関係でいられず,それどころか,構造的に非常にその影響を受けやすい調査法ということになってしまうのです。

まとめ

今回は偽の記憶が記憶に基づく食事評価法(24時間思い出し法・FFQ)に及ぼす“偽の記憶”の影響について紹介してみました。いずれの方法にしても,それぞれに固有の設計により偽の記憶の影響を受けてしまいます

さて次回は,今まで何度か行ってきた記憶に基づく食事評価法への批判に対して,それに寄せられている批判について紹介したいと思います。批判があれば,それに関する批判もある。記憶に基づく食事評価法でも役に立っているという情報をお伝えできればと思います。

連載目次

  1. 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる
  2. 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から
  3. “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
  4. “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】現在のページ
  5. 記憶に基づく食事評価法の妥当性は確認されている
  6. テクノロジーを用いた食事評価法について概観する【栄養疫学研究の展望】
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