私たちの“記憶”は本物か?「偽の記憶」について基本から整理します

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みなさん,こんにちは.
シンノユウキ(@y_stadio)です.

今回は「偽の記憶」について紹介していきます.私たちの記憶は本当に正しいのか.もしかしたら,あらぬ事実によって上書きされているかもしれませんし,あるいは完全なでっち上げかもしれません.こういった事項について,少し整理していけたらなと思います.

では行きましょう!

 

記憶について

まずは記憶について簡単に紹介しておきます.こういった基礎知識を理解することで,これ以降の記事を読んでいく際の理解の助けになると考えています.なので,記憶について基礎的な理解が済んでいる読者の方はこの項目は読む必要がありませんので,いい感じにスキップしてください.

記憶には,符号化→統合→検索→忘却というプロセスがあります.これを以下で順番に紹介していきます1

 

符号化(Encoding)

まずは符号化(Encoding)というプロセスからです.私たちが見たり聞いたり,また感じたりした際に得た情報は,そのままの形では記憶として処理できません.脳で理解しやすいような形式に変換する必要があります.そのプロセスを符号化(場合によっては記銘)といいます.このプロセスを経ることで情報を記憶として保存することができるのです.

その際には,主に以下の3つによって符号化されます:

  1. 画像(Visual)
  2. 音(Acoustic)
  3. 意味(Semantic)

これらの形式に情報を変換することで,容易に記憶できるようになります.皆様もなんとなく思い当たるのではないでしょうか.難しい概念を図解して覚えたり,英単語を繰り返し発生して自分の耳に聞かせてみたり,なんでもない配列に何らかの意味を紐づけてみたり.こういった行為は全て記憶として定着させるための符号化の過程とも捉えられるものだったのですね.

 

統合(Consolidation

情報を符号化し,処理しやすい形式に変換した後には,今度は既存の記憶などと結合するというプロセスに移ります.

ニューロン間のシナプスの結合を強固にしたり,新しいニューロンとの結合を作成したりします.この段階で,ニューロン同士の結合が再構成されたりします.

何度もシナプスがつなぎ直されたり,また強固になったりすることでその記憶は思い出されやすくなったりします.

 

検索(Retrieval)

最後に検索(Retrieval)です.符号化し,結合された情報を思い出して使用するプロセスです.

この検索というプロセスには,主に2つの方法があります.認識と思い出しという方法です.

認識は,記憶と現在の情報との関連性を見る方法です.目の前のスマートフォンを見て,これは何だったかな?と思いだす必要のある人はいないでしょう.これはスマートフォンだ!と無意識のうちの認識するはずです.こういった検索の方法を認識といいます.

それに対して,思い出しは,記憶への直接的なアクセスが必要になります.昨日食べたものを思い出しだして下さい,と言われた場合がこれに該当します.過去の記憶にアクセスし,それを再構築し,脳にその情報を認識させるのです.

 

とりあえず,以上で記憶に関する基本的な知識の整理は終わりです.次は,いよいよ「偽の記憶」に踏み込んでいこうと思います.

 

「偽の記憶」の作られ方

皆さんは自分の記憶に自信がありますか?自分が覚えている―と錯覚している―記憶は本当に正しいと自信を持って答えられますか?幼い頃に自分に起こった出来事,それは本当に起こっていたのでしょうか.

私たちの記憶は,いとも簡単に歪んでしまいます.

なお,以下の説明は,越智 啓太先生の執筆された,『つくられる偽りの記憶:あなたの思い出は本物か?』(化学同人)参考としております.

 

記憶は上書きされる

情報は,記憶した時から,そのままの状態でずっと保存されるわけではありません.かなりダイナミックに変更されてしまいます.

ある情報を記憶していた場合,後から同様の事柄に関する情報が入力された場合,その部分が“上書き”される場合があります.これを「上書き仮説」と言います.

また,上書きだけでなく,後から入ってきた情報と既存の情報が並んで保持される場合もあります.これを「共存仮設」といいます.基本的には,既存の情報:記憶よりも,後から入ってきた情報の方が鮮明なため,こちらの方が正しい記憶だと思いがちになります.

これら2つの仮説は,それぞれが同時に成り立たないというわけでもなく,並列して行われることもあります.しかし,多くの場合,記憶は上書きされる事が多く,そうなった記憶は二度ともとに戻らないとも言われています.

 

質問によって記憶が変更されることも

こういった上書きは質問されることによっても行われます.質問によって新しく情報を与えられた場合,たとえば,「その時に,Aということはなかった?」というような新しい情報に触れた場合,それによっても記憶が上書きされることがあります.対象者がそれについて頭の中でイメージングした場合,その工程で記憶が上書きされてしまう場合もあるのです

ここで,これに関する有名な実験を紹介しましょう.エリザベス・ロフタス博士が行った実験です2.45人の学生に,車が衝突するビデオを見せました.そしてその後,車の衝突時のスピードについて,その“衝突”の部分を変更し,5つのパターンの質問をしました.その5つは,以下の通りです:

  1. Smashed:激しく衝突した
  2. Collided:衝突した
  3. Bumped:軽く衝突した
  4. Hit:当たった
  5. Contacted:接触した

学生たちがみた動画は同じ動画です.なので,質問の仕方を変えたからと言って,当然ながら実際のスピードが変化したわけではありません.しかし,質問を変えただけで,それぞれの申告した車のスピードに違いがあったのです.以下の表では,質問パターンとそれらの平均速度を表しています:

このように,質問の仕方を少し変更するだけで,結果には大きく影響します.質問によって記憶が上書きされてしまったのですね.

こういった工程は,無意識の誘導尋問でも生じます.先の質問のように,新しい情報をちらつかせただけでもそうなりますし,質問者に対する接し方(答えの違いによる態度の変化)もそうさせます.

なので,質問の仕方には非常に注意しなくてはならないということになります.

 

「偽の記憶」は簡単に植え付けられる

また,先程は既存の記憶の上書きについて紹介しましたが,根も葉もない“記憶”を植え付けることも可能です.

この事に関する代表的な実験,通称「ショッピングモールの迷子実験」と呼ばれている実験を紹介してみたいと思います3

 

ロフタス博士の「ショッピングモールの迷子実験」

この実験は,現在カリフォルニア大学で教鞭を取っているエリザベス・ロフタス博士らの研究グループによって行われました.被験者に,実際にはなっていないにもかかわらず,「ショッピングモールで迷子になった」という偽の記憶を植え付けるという実験です.人間の記憶は簡単に捏造されてしまうのか,このことを確かめるために行われました.

偽の記憶の埋め込みに成功した例を紹介します.最初に,対象者に過去に起こった4つのイベントを提示します.このうち3つは本当にあったイベントですが,1つは偽のイベント(ショッピングモールで迷子になった)です.もちろん,対象者にはすべて本当にあったイベントだと説明しています.

ちなみに,ショッピングモールで迷子になったとする偽の記憶に関して提示された情報は以下のような内容です:

  • 5歳の時にワシントン州のショッピングモールで迷子になった
  • そのショッピングモールは家族で時々買い物に行っていた場所だった
  • 老人によって助けられ,その時は激しく泣いていた

この偽のイベントも加えらた4つのイベントについて,5日間,毎日詳細について追記していくように指示されます.もし,追記する情報がなければ,「I don't remember:覚えていない」と書くように言われました.

その結果,この被験者は5日間に,次に示す追加の情報についても思い出しました:

  • 助けてくれた人が本当にカッコ良かった(really cool)
  • 家族ともう会えないと思っていた
  • 家族との再会時,母親を叱りつけた

また,その後にどの程度,記憶を鮮明に記憶しているかを尋ねました.その際,1(全くクリアでない)から11(非常にクリア)までのスケールで,その鮮明さを答えてもらいました.4つの質問のうち,3つは本当にあった記憶で,1つはショッピングモールで迷子になったという偽の記憶です.そのうち,偽の記憶に関して,その鮮明さを「8」であったと回答しました.なんと,そのスコアは上から2つ目に高いスコアで,本当にあった2つの記憶よりも鮮明に覚えていたと解答したのです.

これは,非常に興味深い実験でした.なにせ,実際には起こっていないイベントを,本当にあったことだと信じ込ませる,偽の記憶を植え付けることに成功したのですから.

 

まとめ

今回は「偽の記憶」について少し整理して紹介してみました.私たちの記憶は簡単に歪み,また捏造されてしまう,ということがご理解いただけたのではないかと思います.

今度は,この「偽の記憶」が食事評価に及ぼす影響について見ていきたいなと思います.近々公開する予定です.

参照

  1. 参考)http://www.human-memory.net/processes.html
  2. 参照)Loftus, Elizabeth F., and John C. Palmer. "Reconstruction of automobile destruction: An example of the interaction between language and memory." Journal of verbal learning and verbal behavior 13.5 (1974): 585-589.
  3. 参照)Loftus, Elizabeth F., and Jacqueline E. Pickrell. "The formation of false memories." Psychiatric annals 25.12 (1995): 720-725.